表紙の一行を書く——コンセプト
表紙の一行を書く——コンセプト
「ひとことで言うと、何のサイトなのか」。それを一行で言える言葉を、コンセプトと呼びます。テーマ(何について)、切り口(どこからどう見るか)、型(どんな形のサイトか)がばらばらにあると、迷いやすくなります。一行にまとめておくと、迷ったときに戻る場所になります。
といっても、この一行を、書き始める前にそろえておく必要はありません。テーマも切り口も型も、記事を書いていくうちに形になっていくものです。三つが見えてきたと感じたときに、一行にまとめれば間に合います。
見本は、ここでも雑誌にあります。雑誌の編集長は、自分の雑誌が何の雑誌かを一行で言えます。ここでは、編集長たちの一行を見てから、自分のサイトの一行の書き方を説明します。
編集長は、自分の雑誌を一行で言える
雑誌の定期購読サービス「Fujisan.co.jp」に、各誌の編集長が自分の雑誌を語った企画があります。そこに並んだ言葉を、いくつか見てみましょう。
- 『BRUTUS』——「普通とはちょっと違う面白がり方をすることで、読者に楽しみを届けてきた」
- 『クロワッサン』——「編集者たちが日々意識的に暮らしを営むことで、知恵を集める」
- 商品を自分たちで買ってテストする雑誌『LDK』——「玉石混淆の口コミとは一線を画す、本気の情報誌」
- 『家電批評』——「メーカー広告・忖度ナシを貫き、本音テストで家電選びをサポート」
- 『からだにいいこと』——「『健康でなければキレイでいられない』と気づいた女性のための健康生活情報誌」
どれも、長い企画書ではなく一行です。それでも、その雑誌が誰に向けて、何を、どんな態度で届けるのかが、この短さの中に入っています。『LDK』の一行からは、口コミを検索してもどれを信じてよいかわからない人に向けた雑誌だと読み取れます。『家電批評』の一行には、広告主に遠慮しないという態度の宣言が入っています。『からだにいいこと』の一行には、読者の顔まで書き込まれています。毎号の誌面は変わっても、この一行は変わりません。表紙のように雑誌の顔であり続けるこの言葉が、コンセプトです。
コンセプトの中身は「テーマ×切り口×型」
コンセプトという言葉は、テーマや切り口と混ぜて使われがちなので、先に整理しておきます。
- テーマ——何についてのサイトか
- 切り口——それを、どこからどう見るか
- 型——どんな形のサイトにするか
- コンセプト——ひとことで言うと、何のサイトか
つまりコンセプトは、テーマ・切り口・型と並ぶ4つ目の決めごとではありません。決めた3つが、一行に収まったものです。
実例で分解してみます。「消費者目線で家電を比較するサイト」という一行なら、こうなります。
- テーマ=家電(何について)
- 切り口=消費者目線(メーカーの宣伝からではなく、買って使う側から見る)
- 型=比較サイト(商品を横に並べて比べる形)
3つの部品が、短い一行に組み上がっています。逆に言えば、一行がぼやけるときは、テーマ・切り口・型のどれかがまだ曖昧な印です。「家電のことをいろいろ書くサイト」としか言えないなら、切り口がまだ言葉になっていないことが多いです。コンセプトを書いてみることは、いま見えているものを確かめる作業にもなります。いま書けないとしても、困ることはありません。部品がまだ出そろっていない、というだけです。
先ほどの『家電批評』の一行——「メーカー広告・忖度ナシを貫き、本音テストで家電選びをサポート」——も、同じ部品でできています。家電というテーマを、忖度なしの本音という切り口で、テストという作りで見せる。「消費者目線で家電を比較するサイト」と、構造がそっくりです。プロの編集部が作る雑誌でも、個人が作るサイトでも、コンセプトの骨組みは変わりません。
雑誌の外にも、名コンセプトはある
一行に圧縮する仕事は、雑誌だけのものではありません。
iPodのコンセプトは「ポケットに1,000曲」でした。性能の数字を並べるのではなく、これを手にすると暮らしがどう変わるのかを、絵が浮かぶ一行で言っています。もし「大容量で小型の音楽プレーヤー」と言っていたら、正確ではあっても、持ち歩く自分の姿までは浮かびません。同じ商品でも、一行の書き方で伝わるものが変わります。スターバックスは、自分の店を「第三の場所」と決めました。家でも職場でもない、もうひとつの居場所。コーヒーという商品の話をしていないのに、この一行が店の在り方を決めています。
よいコンセプトに共通するのは、作り手の事情ではなく、読者や顧客から見た値打ちが書いてあることです。自分のサイトの一行を書くときも、ここは同じです。
テンプレートで、自分のサイトの一行を書く
白紙から一行をひねり出すのは大変なので、まずは次の形に当てはめて書いてみてください。
「〈誰〉のために、〈切り口〉で〈テーマ〉を〈型〉するサイト」
〈誰〉には読んでほしい読者を、〈切り口〉〈テーマ〉〈型〉には、それぞれ自分の決めごとを入れます。例を挙げます。
- 「はじめて一人暮らしをする人のために、消費者目線で家電を比較するサイト」
- 「これからキャンプを始める人のために、初心者の失敗談つきで道具選びを教えるサイト」
- 「同じ街で子育てをする人のために、親の目線で近所の公園と遊び場を紹介するサイト」
当てはめた日本語がぎこちなければ、通じる言い方に直してかまいません。型の名前がそのまま入らないときは、末尾を「〜を比較するサイト」「〜を記録していくブログ」のように、その型でやることを表す言葉に置き換えます。大事なのは言い回しではなく、誰・切り口・テーマ・型の4つが全部入っていることです。
書いた一行は、声に出して読んでみるか、身近な人に見せてみると弱点がわかります。読んだ人が「どんな記事があるのか想像できる」と言ってくれれば合格です。「ふつうのブログと何が違うの」と聞き返されたら、切り口が弱いか、まだ言葉になっていないかのどちらかです。
最初は長くなってもかまいません。書いてから、なくても伝わる言葉を削っていきます。たとえば「はじめて一人暮らしをする人のために、消費者目線で家電を比較するサイト」は、読者を切り口に溶かして「消費者目線で家電を比較するサイト」まで縮められます。削るたびに、表紙に刷れる一行へ近づいていきます。
コンセプトは、迷ったときの物差しになる
書き上げた一行は、サイトの飾りではありません。プロフィール欄に載せるためだけの言葉でもありません。いちばん働くのは、迷ったときです。
記事を書くか迷ったとき。たとえば「消費者目線で家電を比較するサイト」を作っていて、新製品発表のニュースをいち早く載せたくなったとします。一行に照らすと、それは消費者目線の比較ではなく、メーカーの発表の紹介です。書きたい気持ちとは別に、このサイトの記事ではない、と判断できます。
広告を載せるか迷ったとき。比較して負けた商品に、報酬の高い広告があったとします。載せて推せば収入にはなりますが、その瞬間、「消費者目線で」の一行がうそになります。逆に、比較して選んだ商品の広告なら、一行に照らして堂々と載せられます。
こうした迷う場面は、サイトを続けるかぎり何度も来ます。記事のネタを選ぶとき、書き方に悩むとき、案件の一覧を眺めるとき。そのたびにゼロから悩まなくてすむように、見えてきた決めごとを一行にまとめておくことに、コンセプトを書く実務的な意味があります。編集長が自分の雑誌を一行で言えるのも、飾りの標語を覚えているからではなく、毎号この物差しで誌面を判断しているからでしょう。一行ができたら、作業中に目に入る場所に書き留めておくとよいでしょう。迷ったときは、そこに立ち返って判断できます。