柱を抜き出して、1冊ぶんを作り切る——ムックの作り方
柱を抜き出して、1冊ぶんを作り切る——ムックの作り方
暮らしの記録を書きためていくと、どこかで偏りが出てきます。気がつけば節約の記事ばかり書いていた。ふるさと納税の記事にだけ、検索から人が来続けている。この偏りが、サイトの柱です。
ここから先は、その柱を抜き出して、ひとつのテーマでまとまったものを作る話になります。いきなり大きなサイトを立ち上げるのではありません。まず、小さく1つ、作り切ります。
見本は、雑誌にあります。暮らし全般を扱う雑誌が、ひとつのテーマだけで1冊を出す。ムックです。
生活情報誌は、人気の企画を1冊にまとめ直す
書店の実用書の棚に、雑誌の名前が入った大判の本が並んでいます。その多くは、新しく取材して作ったものではありません。
節約と暮らしの雑誌『サンキュ!』は、ベネッセ・ムックで「サンキュ!特別編集」というシリーズを出しています。『年収別 貯めている100人の家計』『ムダなモノを持たずに暮らす100人の家』『貯める&投資のキホン』。どれも、毎号の誌面でやってきた家計や片づけの企画を、テーマごとに集め直したものです。
料理と暮らしの雑誌『レタスクラブ』も同じです。KADOKAWAの「レタスクラブMOOK」に『保存版 レタスクラブ特別編集 きれいな家をつくる「整理収納」術』という96ページの一冊があります。出版社の紹介文には「雑誌『レタスクラブ』で過去に実施した大人気の掃除・収納企画を1冊にまとめた決定版」とあり、読者のレビューには「4年分の収納・掃除企画が一冊に」と書かれています。
4年分の誌面から、掃除と収納だけを抜き出して、96ページにする。新しい取材はしていません。すでに作ったものを、テーマで束ね直しているだけです。
ムックという形そのものも、この作り方に向いています。ムックは雑誌の形をしていながら、書籍のように1つのテーマを掘り下げて作られます。雑誌には返品期限があって、次の号が出れば書店から下げられますが、ムックにはそれがなく、長く置かれます。定期的に出し続けることも前提にしていません。1つのテーマを、1冊で、作り切る。
あなたのサイトにも、何年かぶんの記事があります。その中から、ひとつのテーマの記事を抜き出して束ね直し、足りないところを書き足す。ムックと同じことが、そのままできます。
どの柱を抜き出すか
抜き出す柱は、3つの目で選びます。
ひとつ目は、書いた量です。自分の記事一覧を眺めて、どのテーマが多いかを数えます。多く書けているということは、材料が手元にあって、書くのが苦にならなかったということです。
ふたつ目は、読まれ方です。アクセス解析で、検索から人が来ている記事を見ます。書いた本人が忘れかけていた記事に、人が来続けていることもあります。読者がいるほうの柱を選びます。
3つ目が、広告です。その柱で書いた記事を読んだ人が、次に何を申し込むのか。申し込むものがあるのか。ここは見落とされやすいところなので、節をあらためて見ていきます。
『サンキュ!』がムックにしているのは、家計と片づけです。毎号やっていて、読者の反応がよくて、暮らしのお金にまつわる企画。編集部は、当てずっぽうでテーマを選んでいません。売れた企画を選んでいます。
その柱で、読者は何を申し込むのか
雑誌の編集部には、媒体資料(メディアガイド)という一冊があります。広告主に見せるための資料で、この雑誌の読者は誰で、何人いて、どんな広告枠があり、いくらで、これまでどんな出稿があったかが載っています。全部、広告主が「この雑誌に出す価値があるか」を判断するための材料です。
自分のサイトについて、同じことが言えるかどうか。柱を選ぶときには、この目が要ります。
気をつけたいのは、記事に書いた対象が、そのまま広告になっているとはかぎらないことです。街のラーメン屋を紹介しても、読者が店で払ったラーメン代は成果になりません。好きなバンドについて書いても、バンドが広告主なわけではありません。ここで「自分の柱は広告と縁がない」と決めてしまうのは、早すぎます。
見るのは、記事を読んだ読者が、次に何を申し込むかです。宿の記事を読んだ人は、宿を予約します。ジムを見比べた記事を読んだ人は、まず見学や体験を申し込みます。ライブの感想を読んだ人は、映像をもう一度観たくなって、動画配信に登録するかもしれません。紹介した対象と広告が一対一で対応していなくても、読者の次の一歩まで視野を広げれば、道はつながります。
報酬の決まり方には、2種類あります。ひとつは定額型で、成果1件あたりの金額が決まっています。もうひとつは定率型で、読者が払った金額に対する割合で決まります。
定額型で覚えておきたいのは、読者がまだお金を払っていない段階で成果になるものが多いことです。一括見積もり、無料体験、来店予約、資料請求。読者に高い買い物を勧めなくても、「まず見積もりを取ってみる」「無料体験に行ってみる」という自然な一歩を案内するだけで、成果になります。
執筆時点の例を並べます。暮らしの節目なら、食材宅配のおためしセットの購入で1件1,000円、引越しの一括見積もりの完了で1,600円。趣味のテーマなら、アウトドア用品の通販が購入金額の3%、登山道具のレンタルが5%。資格なら、通信講座の資料請求で1件780円、講座の申し込みで受講料の6.2%。
街のことを書いているなら、宿泊予約が予約金額の1%から2.8%、エステの無料体験の申し込みで4,000円、ゴルフスクールの新規来店で9,500円。
好きなものを語るサイトなら、本の通販が3%、CDが2%ですが、それだけではありません。使わなくなった楽器の出張査定で1件3,000円、音楽教室の無料体験からの入会で8,100円、動画配信サービスの新規登録で500円から3,620円といった案件があります。
3,000円のCDが1枚売れて報酬60円という計算だけを見て、報酬の小さいテーマだと決めてしまうと、こちらを見落とします。
案件一覧で探すときのこつは、店やモノの名前ではなく、読者の行動の言葉で引くことです。「美容室」ではなく「予約」、「宿」ではなく「ホテル予約」。自分の記事の読者が、ネットのどのサービスを通っていくのかを思い浮かべると、対応する案件が見つかります。
なお、ここに挙げた数字は、すべて執筆時点のものです。案件も報酬も入れ替わりますので、実際に選ぶときはASPの管理画面で確かめてみてください。
台割で、全体を先に一覧にする
柱が決まったら、いきなり書き始めずに、全体の一覧を作ります。雑誌の編集部が使っている道具が、そのまま使えます。台割(だいわり)です。
台割とは、どのページに何を載せるかを、1冊まるごと一覧にした表のことです。ページ番号、扉や特集といった区分、見出し、担当者。編集部はこれを、原稿を書き始める前に作ります。
ある編集部は「雑誌の設計図みたいなもの」と書いていますし、児童誌の編集部は、編集会議でどんな企画を載せるかを決め、その内容を書き入れたものが台割になる、と説明しています。8ページを超える冊子なら作っておくとよい、とされる道具です。
サイトの台割は、これから作るページのタイトルを並べた一覧表です。作ると、3つのことができます。
まず、量が見えます。あと何本、と数えられる作業と、終わりの見えない作業とでは、続けやすさが違います。次に、配分が確かめられます。入り口の記事ばかりで、1件ずつの詳しい記事が足りない、といった偏りが、表の上でわかります。そして、つながりを設計できます。どのページからどのページへ読者を送るかを、書く前に決められます。
一覧の段階で、ひとつ確かめておきたいことがあります。同じ検索意図の記事を2本作らないことです。「おすすめ」と「ランキング」は、読者の知りたいことがほぼ同じです。似た記事が2本あると、互いに評価を食い合います。書き始める前に気づいて1本にまとめられるのが、一覧を先に持つことの効き目です。
一覧が最後まで書き出せるかどうかで、テーマを選ぶ
台割を書いてみると、テーマの性質がわかります。一覧が最後まで書き出せるテーマと、書いても書いても終わらないテーマがあるのです。
作り切るなら、前者を選びます。「東京の3,500円以下で泊まれるホテル」「初心者のための薪の作り方」。3,500円以下のホテルは無限にはありませんし、薪を作る工程にも終わりがあります。範囲に果てがあるから、書き切れます。
目安は、30ページから50ページで全体を覆えるかどうかです。ムックに返品期限がなく、定期刊行を前提にしないのと同じで、こちらも「出し続ける」前提ではありません。
ページは3種類でできています。表紙と目次にあたるトップページには、全体のまとめとおすすめ順、各ページへの入り口を置きます。1件ずつ詳しく紹介する個別ページが、本体です。そこに、選び方や予約のこつといった補足のページを足します。
3,500円以下のホテルなら、トップページ1、エリア別の一覧4、ホテルの個別ページ30、補足のページ5で、40ページ。この一覧が、そのまま設計図になります。
書く順番は、個別ページからです。1件ずつ埋めていって、全体をまとめるトップページは最後に作ります。トップページは、個別ページの中身でできているからです。家を建てるのとは逆で、部屋から作って、玄関を最後に作ります。
作り切ったあとの手入れ
作り切ったら更新はほどほどでよい、というのは、放置してよいという意味ではありません。手入れが軽くなるように、書き方を工夫しておきます。
料金、営業時間、キャンペーンのような変わりやすい情報を、記事の芯にしないことです。変わりやすいものは「最新の情報は公式サイトでご確認ください」と案内して逃がし、自分のページには、実際に泊まった感想や駅からの道のりのような、変わりにくいものを厚く書きます。
そのうえで、年に1〜2回の点検日を決めます。リンク切れはないか、閉業した施設はないか、古びた記述はないか。手入れの軽い設計と、年に数回の点検。この2つがそろって、はじめて「作り切ったら更新はほどほどでよい」が成り立ちます。
1冊作り切ると、次が変わる
40ページを作るのは、楽ではありません。ただ、終わりの見えている大変さです。書き続けるブログと違って、どこまでやれば完成かが、最初から決まっています。
そして、小さくても1つ、設計から公開まで作り切った経験は、次に何を作るときにも土台になります。手のかからないものが1つできれば、様子を見ながら2つ目に取りかかることもできます。
雑誌の世界では、別冊が繰り返し売れると、そのテーマは1冊かぎりの企画ではないとわかり、独立した雑誌の創刊に進みます。作り切った1つが読まれるようなら、同じ道が見えてきます。次は、号を重ねる側の話です。